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福島地方裁判所 平成3年(ワ)255号 判決

原告

株式会社ホワイトクリーン(X)

右代表者代表取締役

青木勝

平澤改奇世

髙橋正勝

右訴訟代理人弁護士

小野寺健二

佐藤義行

後藤正幸

小松哲

被告

福島県(Y1)

右代表者知事

佐藤栄佐久

右訴訟代理人弁護士

鈴木芳喜

右指定代理人

友部俊一

長谷川孝

落合良二

木村光政

星一

矢澤倉一

岡部英次

被告

西白河郡西郷村(Y2)

右代表者村長

菊地國雄

右訴訟代理人弁護士

橋本登行

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  前示の争いのない事実及び〔証拠略〕を総合すると、次のような事実の経過を認めることができる。

1  羽鳥サバイバルランドは、昭和五六年ころ、地域の活性化を図る被告村の協力を得て、福島県西白河郡西郷村地内に自動車競技場を建設することを計画し、同年八月、被告村から林地開発に伴う意見として、その設計及び実施計画を検討したところ適当と認める旨(ただし、工事期間中及びその後の災害防止については適切に施す事、と付記されている。)の回答を得て、さらに同月三〇日、地域代表者及び被告村との間で、環境保全に関する協定書を取り交わし、自動車競技場の設置に伴う防災対策には万全を期することとするが、これが原因で予期せぬ災害等が生じた場合には速やかに補償すること等を内容とする協定を締結した。同年九月一四日、福島県知事に対し、林地開発許可申請を行ったが、それに添付した資金計画書では防災費を一〇〇万円として計上していた。その後、同年一一月二日、福島県知事から、開発対象地域内において、災害が発生した場合には、直ちに必要な措置をとるとともに遅滞なく災害発生届を知事に届け出ること、防災工事を先行実施すること等の許可条件が付されたうえで、本件土地につき、自動車競技場造成を目的として、開発行為に係る森林面積を三・六一九二ヘクタールとする林地開発許可が与えられ、福島県棚倉林業事務所長からは、その通知とともに、区域外への土砂の流出及び環境の悪化が生じないよう防災上の安全確認並びに善良な管理体制のもとに実施することという配慮事項が示された。そして、本件土地は、東西北が山に囲まれたすり鉢状の地形で、南側が沢のようになって通路としての役目を果たしていたところ、右開発許可を得た同会社が本件土地につき、許可面積を大幅に上回る九ヘクタールを超えた面積について開発行為を行い、ここに植生していた雑木を伐採し、土盛りするなどして自動車用の障害コースを造成して、路外走行を楽しむ車の愛好者を対象として営業を開始した。

2  その後、羽鳥サバイバルランドの社長三瓶洋輔は、白河市議会議員から環境コンサルタントを業としている有馬忠純を紹介され、同人から産業廃棄物処理施設設置方の打診を受け、まもなく、当時原告代表者であった伊藤久長に引き合わされた。伊藤は、そのころ原告及びその関連会社である高島運輸の各代表者の地位にあって、この時点で既に三カ所の産業廃棄物処理施設の設置を手掛けた経験を有しており、たまたま西郷村に隣接する大信村地内で産業廃棄物処理施設設置の準備を進め用地取得の段階にまで至ったようであったが、有馬から本件土地に施設を設置する話を持ちかけられると、地元の同意が得られるならばそちらに進出したいと応じた。そこで、有馬は、早速、本件土地や隣接地の地権者八名を回って処理施設設置の同意を取り付けたほか、被告村役場や棚倉林業事務所にも出向き、伊藤の意向を伝えるなどして根回しを施した。伊藤は、有馬から地元での感触が良好であるとの報告を受け、新たに林地開発許可を得る手間が省けることなども考慮して、施設設置場所を西郷村へ変更することにした。

3  原告は、昭和五八年八月二日から翌三日にかけて、地権者や真名子地区の住民に産業廃棄物処理施設に関する理解を求める目的で、有馬が右住民らを横浜のモデル処分場に案内して実情を視察してもらい、同月一二日、羽鳥サバイバルランドの間で、譲渡契約を締結して、会社自体及び営業権をはじめ同会社に関する一切の権利を承継したうえ(なお、三瓶も引き続き従業員として雇用された。)、同月二〇日、真名子地区の区会を開催してもらい、伊藤のほか、三瓶や有馬も出席して施設設置の計画概要を説明し、その了解を得ることができたことから、翌二一日、真名子区長との間で公害防止協定書を取り交わし、同月二七日、地権者八名と本件土地の賃貸借契約(従前に羽鳥サバイバルランドが結んでいた賃貸借契約の期間が七月二〇日までとなっていたため、これを承継するかたちにするため同日付としている。)を締結して、即時に賃料を支払った。

4  ところで、本件土地については、許可面積を超える範囲の開発行為が実施されこれに対応する防災工事が不十分であったことなどが災いして、昭和五八年七月二八日の豪雨により、本件土地から鉄砲水が出て多量の土砂を流出するなどし、下流域で道路が損壊したり田畑へ土砂が流入するなどの災害が発生した。被告村では、この災害が羽鳥サバイバルランドの開発行為に起因するものと判断し、棚倉林業事業所と協議し、同会社に対し、復旧工事を行うよう申し入れ、三瓶も直ちにこれを了承した。ところが、羽鳥サバイバルランドが復旧工事の目処を示してこなかったため、同年八月二二日、棚倉林業事務所において三瓶を呼び出して復旧工事の実施を催促すると、同人は資金に余裕がなく原告に援助を受ける旨を説明した。その後、伊藤らが、同月三〇日、右事務所を訪ねて、林地開発許可を受けた者の地位の承継と産業廃棄物処理施設の設置の意向を伝えた際、同事務所職員から羽鳥サバイバルランドが許可面積よりも大幅に上回る開発行為を行ったことについての後始末と、災害発生の防止策を講ずるように指導を受けたうえ、あわせて林地開発許可承継のための書類等を受け取り、翌三一日、これを作成して持参したが添付書類を欠いているとして受理されなかったので、同年九月一三日、承継の原因を前記譲渡とする福島県知事宛の開発行為承継届出書を改めて福島県棚倉林業事務所長に提出して受理された。さらに、同月二八日、林地開発計画変更の申請を行い、同年一二月二一日、福島県知事から、開発行為の途中において災害が発生し、或いは発生するおそれがある場合は許可条件の変更及び追加等をすることがあること、沈砂池の管理については開発工事完了後も十分に行うことの二項目をさらに許可条件に追加したうえ、本件土地につき、開発目的を自動車競技場ダートコース造成として、九・六四四九ヘクタールの変更許可が与えられ、あわせて福島県棚倉林業事務所長から、下流区域に汚濁水が流出しないよう水路、沈殿槽等を常時十分に管理すること、区域外への土砂の流出及び環境の悪化が生じないよう、防災上の安全確認並びに善良な管理体制のもとに実施すること等の配慮事項が示された。

5  これとともに、原告は、村道の補修工事の関係では、伊藤が被告村の建設課と協議して、原告において起業して補修工事を実施することに合意し、昭和五八年一〇月一七日、被告村に対し、村道の破損について修復工事を行う旨の誓約書を提出した後、同月二六日、道路法二四条に基づき道路工事の承認申請がなされ、同年一二月八日、その承認が与えられると原告の負担でヒューム管の入替え等の修復工事を実施した。また、県道の補修工事の関係では、同年一〇月一七日、福島県白河建設事務所長に対して修復工事の承認を申請し、同年一一月三〇日、その承認が与えられると前同様に修復工事を実施した。そのほか、被害田細についても、その所有者に対し、二年分の米の販売価格に相当する金額を補償金として支払った。

6  他方、原告は、昭和五八年九月一九日、福島県白河保健所長に対し、産業廃棄物処理施設設置届に伴う事前審査願を提出して受理された。そして、西郷村長は、同保健所長から原告の事前審査願に関する意見を求められたのに対し、同年一〇月二五日、意見書を提出して、設置地区はもとより、その下流域にあたる虫笠、上羽太、下羽太各地区の住民(戸数およそ一八〇)の同意を得ること等の指導を求めた。そのため、同保健所長は、同年一一月一〇日、原告に対し、現地が阿武隈水系真名子川の最上流域で上水道水源及び農業用水として利用している実情にかんがみ、下流域の虫笠、上羽太、下羽太地区民の同意を得られるようにすることをはじめとする合計二〇項目にわたる整備事項を指示して願書を返戻した。その後、同年一二月二六日、再び事前審査願を提出したが、翌五九年一月一九日、依然として不備があることを指摘され、さらに整備することを求められた。また、原告は、昭和五八年一一月七日、被告県の郡山公害対策センター所長に対し、福島県産業公害等防止条例八条一項に基づく指定事業場の設置を届出、同年一二月一四日にその受理書が交付された。

7  ところで、原告が本件土地に設置することを計画していた施設は、産業廃棄物最終処分場の管理型(廃棄物処理法施行令七条一四号ハ)で、水処理施設一式、管理棟、ガス抜装置一式が付属するものであった。そして、同所で取り扱う廃棄物は、燃え殻、汚泥、鉱さい、ゴム屑、廃プラスチック類、硝子屑、陶磁器屑及び建設廃材を予定しており、面積一万六八七五・三四平方メートル、容積一三万四六八二・五五立方メートルの埋立地に、廃棄物と土砂を七対三の割合で混合して埋立し、さらに一・五メートルの厚さの覆土をする方法により処理され、そこから生じた浸出廃水は、遮水シート工法を用いて地下水と完全に遮断して、三段階に及ぶ水処理を施し完全無害化したうえで、真名子川に放流することを計画していた。

なお、被告県においては、廃棄物処理法を受けて、福島県廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行細則が定められ、これらの適正な運用をはかり、産業廃棄物の適正な処理、処分を指導するために、産業廃棄物処理の指導指針が策定されており、これによると産業廃棄物処理施設の設置をしようとする場合、設置(変更)届出の正式受理に先立って事前指導を実施することとし、当該埋立地を管轄する保健所長に事前指導願書を提出してもらい、同所長は、その願出者から予め設置計画等について十分説明を求めるとともに、関係地域住民に対する事業計画説明、関係法令に基づく制限の有無及びこれが許認可を受けるための調査、申請等を事前に行うよう十分指導するとともに、この過程で、必要と認めたときは関係市町村や関係機関に照会して、問題点の有無とその現状を把握し、指導の適正を期するものとされ、最終的には、被告県の環境保全課と市町村の意見をとりまとめ、必要な指導事項を願出者に通知することとしていた。そして、これら一連の事前指導を完了した後、設置(変更)届出の提出を受け、形式審査を経てこれを受理すると、保健所長が環境保全課と協議するほか、関係市町村から意見を徴するなどして審査を実施し、必要があれば届出を受理した日から一定期間内に計画変更命令を発するなどして、廃棄物処理法に定められた手続が予定されていた。

8  原告は、右計画内容の産業廃棄物処理施設届出書を準備したものの、被告県が、右行政指導に係る地域住民の同意を得ていないことを理由としてこれをなかなか受理せず、届出受理を条件とした金融機関からの融資話も、昭和五九年二月末日にはいったん白紙撤回されてしまい、不渡事故を起こす事態となったため、被告県との交渉を弁護士に依頼し、同年三月八日、右弁護士が被告県の環境保全課長と折衝して、同意を得られていないため受理することに強い難色を示していた同課長から受理する旨の言質を半ば強引に取り、同課長の指示でようやく白河保健所長に受理してもらった。しかし、まもなくして福島県知事名による住民の同意取り付けの勧告書が送付され、同年四月二五日には、福島県知事から計画変更命令を受けた(なお、これに従って計画変更の報告を行ったのは昭和六〇年三月三〇日であった。)。

9  その後、原告は、直ちに建設工事に着手せず、下流域の住民の同意を得るべく説明と話合いの機会を求めて呼びかけていたが進展がなく、次第に借入金の金利負担や経費の増大などのために資金繰りが苦しくなり、終に、昭和五九年一二月末日までに回答なきときは工事の準備に入る旨を住民の代表者や区長に伝えたものの、期限までに回答がなかったために、昭和六〇年一月七日、住民の代表者らに対し、同月末に着工する意思を伝えたところ、同月一八日、伊藤が村役場に呼び出されて、村長から着工を見合わせるよう強く要望する旨の要望書を手交されたが、これに応ずることなく、同年二月七日、建設工事に着工した。

10  これに対し、被告村は、昭和六〇年二月ころ、村長と村議会議長が被告県の保健環境部に赴いて建設反対の陳情をしたのに続いて、同年三月二六日、被告県に対し、同議長が建設反対の意見書を提出したほか、同年四月、西白河郡内の町村長によって構成された西白河地方町村会から連名による反対意見の陳情がなされるなど、被告村のほか周辺自治体関係者からの陳情が相次いでなされた。また、住民側は、昭和五九年六月一日、羽太一村区長が県知事に建設反対の陳情書を提出したことを皮切りに、下流域の住民を中心として建設反対期成同盟会を結成したうえ、総決起集会を開き、村内に建設反対の立看板を設置し、あるいは陳情活動を盛んに行うなどの反対運動を展開し、地方自治法一二四条に基づいた工事中止の請願が福島県議会で採択されたほか、福島地方裁判所白河支部に原告を相手方とする建設工事禁止仮処分命令を申請し、さらに、昭和六〇年六月一五日、地権者らが、原告を相手方として、同支部に賃借権不存在確認訴訟を提起した(なお、同訴訟の経過は、昭和六二年八月、同支部において地権者側が敗訴したが、昭和六三年七月、控訴審である仙台高等裁判所において逆転勝訴し、平成元年四月、上告審において原判断が維持されて確定した。)。

11  被告県は、原告に対し、昭和六〇年三月一七日付及び四月二〇日付をもって地域住民の同意を得るよう勧告したが、これに従わなかったため、同月二七日、保健環境部長名をもって、反対運動等の経緯から工事を強行することは、地域住民との摩擦を増幅することになるので住民の同意を得られるまでの間、工事を取り止められるよう善処方をお願いする旨を内容とする通知書を発し、さらに、同年八月一四日、再度同部長名をもって、地元における建設反対運動がますます激しさを増している等諸般の状況から憂慮すべき事態にあるので、速やかに工事を中止されるよう再度要請する旨と、あわせて廃棄物処理法一八条に基づき所要の報告を求める旨を内容とする通知書を発した。それでも原告は工事を続行していたものの、同月二九日、書面で右報告の求めには応じてきたところ、処分場面積、埋立面積、埋立容量及び土堰堤高等の施設の構造及び規模が設置届の内容と異なることが判明して(ただし、土堰堤が高くなっていたほかは、すべて設置届よりも数値が低下していた。)変更届を出さないままで設置届と内容の異なる工事を施工していたことから、同法一五条一項に違反する事実が判明した。そこで、同年九月一八日、県知事名をもって、中止要請に従わずに工事を続行していることは誠に遺憾であるとしたうえで、設置届と構造及び規模が異なっており、廃棄物処理法一五条一項の規定に違反しているので、工事を中止されたい旨を内容とする文書(以下「本件文書」という。)を発するとともに、同月二一日、現地調査を実施したところ、ようやく原告が工事を中止した。

その後、被告県などの仲介で、原告関係者と地元住民との間で話し合いの場がもたれたものの、双方とも主張を譲らずに平行線を辿ったまま、膠着状態に陥り、このころ伊藤がその責任を取って代表取締役を辞任した。

12  その後、原告は、審尋手続が続いていた工事禁止仮処分事件との関係で、原告側が、県知事の中止勧告に従っているのではないことを明らかにするためと、不測の事故を回避するべく工事を完成させて事故対策を講ずる必要があると考え、変更届を提出して工事を再開しようと企図し、昭和六三年一月二一日、新たに代表取締役に就任した寺田元一外一名が弁護士らを伴って被告県の環境保全課長と面会し、前記仮処分事件との関係で、原告においては県知事が発した本件文書は中止勧告あるいは中止の行政指導であることを主張しており、担当裁判官もこれを認識しているから、この指導に従っているのではないことを明らかにするため次回の審尋期日までに変更届を出したい等と説明して変更届の受理を打診し、仮に受理されなくとも提出せざるを得ないとの決意を伝えたが、提出は慎重にされたいと同課長から自重を求められた。しかし、原告は、同年二月一〇日、福島県白河保健所長に変更届を提出したところ、同月一八日、住民の同意が得られていないことなど当時の諸事情を勘案して不受理処分とされた。そこで、原告は、弁護士を代理人に選任して、同年三月一四日、行政不服審査法に基づき、福島県知事に対し、右不受理処分につき審査請求を行ったが、同年四月一二日、本件審査請求を棄却する旨の裁決がなされたので、同月二八日、厚生大臣に対し、再審査請求を行ったところ、同年九月一〇日、原処分を取り消す旨の裁決がなされた。

二  以上の事実関係を前提にして、前掲の各争点を判断するにあたり、まず産業廃棄物処理施設を設置する過程において、実際上、必要と考えられる手続や、手順を本件の実案に即して整理してみる。

産業廃棄物処理施設を設置するためには、まず廃棄物処理法に定める手続を履践することが必要なのはいうまでもないが、かかる手続に入る前段階において事前指導と称する行政指導が実施されるのが一般的であり、この行政指導に従って要求事項を充たした場合に、初めて産業廃棄物処理施設の設置届が受理され、同法所定の手続に乗ることができるとされるが、この行政指導の中で、設置場所の周辺地域住民の同意を取り付けることを求めるのが常であり、被告県においても基本的に同様の手続をもって運用されていた。なお、この手続においては、設置場所となる市町村には法令上なんらの権限も付与されておらず、前示したように、事前指導及び設置届受理後の審査の過程において、その意見を聴取されるだけに止まっている。

また、他の行政法規との関係で、当該施設を設置する場所によっては、右の手続に先立って、当該土地に適用されている公法的規制の解除、例えば、都市計画法、森林法、農地法及び国土利用計画法等の関係法令に基づく開発行為の許認可等を取得することを要求されることがあり、その場合には、かかる許認可を得なければ、施設の設置という開発行為に着手することができないことになるが、本件事案においては、本件土地がすべて山林であったことから、森林法に基づく林地開発許可を取得することが必要とされたのである。ちなみに、林地開発許可の申請手続においても、関係市町村は、森林法一〇条の二第六項によりその意見の聴取が義務づけられているほかは、なんらの権限も付与されていないのである。

さらに、私法的な視点からみると、設置を予定する土地について、その用地を買収して所有権を得るとか、地権者から地上権、賃借権を設定してもらうなどして、その用益のための正当な権原を取得しなければならないことはいうまでもない。そこで、このような行政上の許認可と私法上の権利を得ていなければ、廃棄物処理法に従って設置届を受理されたとしても、産業廃棄物処理施設を設置することは法的に不可能であることになる。

三  以上の各手続の関係をふまえたうえで、原告が施工した村・県道の復旧工事や防災工事の費用負担に関する行政指導の違法性の有無について検討する。

1  この点につき、原告は、そもそも本件土地の現況は林地ではなかったから、林地開発許可は不要であったと主張するが、〔証拠略〕によると、開発行為は、所轄の林業事務所長が開発行為者の完了届を受理することによって終了することが認められるところ、前示事実によれば、既に本件土地につき羽鳥サバイバルランドに対して林地開発許可が与えられていたが、同会社から開発行為が終了した旨の届出が所轄の棚倉林業事務所長に提出されていなかったというのであるから、同許可に基づく開発行為が終了しておらず、原告が同会社を引き継いで新たに本件土地の開発行為を再開するためには、同会社の開発許可を承継することが必要だったと認められるので、開発許可が不要であったとする原告の主張は理由がない。

2  続いて、原告は、本来、被告県や、被告村が負担すべきものであるのに、林地開発許可の承継に伴う行政指導によって、法律上の義務もない原告に工事を行わせ、その費用を負担させた旨を主張するので、まず、この点に関する被告県の行政指導について検討する。前示事実によれば、福島県知事は、羽鳥サバイバルランドに林地開発許可を与えるに際し、開発対象地域内において、災害が発生した場合には、直ちに必要な措置をとることを条件として付したほか、あわせて所轄の棚倉林業事務所長から、区域外への土砂の流出及び環境の悪化が生じないよう防災上の安全確認並びに善良な管理体制のもとに開発行為を実施するように配慮されたい旨が指示されていたところ、豪雨による区域外への土砂の流出等が原因で本件の災害が発生し、同会社の開発行為に起因していると考えられたために、同林業事務所などを通じて、まず同会社に対し、前記許可条件に従って県道の復旧工事と開発区域の災害復旧工事を実施するように勧告がなされたというのである。そうすると、被告県は、開発行為によって当該区域にある森林の土地の保全に著しい支障が生じたことから、その原因者である同会社に対し、森林法一〇条の二第四項に基づいて林地開発許可に付された条件の履行を求めたものであって、森林法によって与えられた所掌事務の範囲において、その事務を遂行するために実施した行政指導として、これを必要とする事情があり、かつ、社会通念上相当と認められる方法によって行われているのであるから、これを違法とみることはできないし、その後、羽鳥サバイバルランドが右行政指導に従うと表明しておりながら右工事を実施しないままの状態で推移していたところ、原告が同会社自体及びこれに属する一切の権利を譲り受けてその法的地位を引き継いだうえ、その林地開発許可を受けた者の地位も承継したというのであるから、原告に対し引き続き前記の行政指導を行ったことについても、格別の不利益を課したものでなく違法とはいえないのである。しかも、原告は、その指導について態度を保留したり拒絶することもなく自主的に右工事を実施しており、前示事実の経過の中では、被告県が、原告に対し、右工事の実施を強迫、強要したような情況はまったく窺われないのである。これらの点に関して、原告は、林地開発許可の承継届を提出する前に、棚倉林業事務所職員から、届出書に譲渡契約書を作成して添付することを要求されたので、やむを得ず債務承継条項を含めた譲渡契約を締結したのであり、羽鳥サバイバルランドの負っていた一切の債務までも承継する意思はなかったと主張する。しかしながら、前示事実によれば、原告は、昭和五八年八月一二日、同会社と譲渡契約を締結し、その後、同月三一日、棚倉林業事務所長に承継届出書を提出しようとしたが、添付書類がなかったため受理されず、これを整えてから同年九月一三日に改めて提出して受理されたというのであるから、その経過からしても、同林業事務所職員が、原告に羽鳥サバイバルランドとの譲渡契約を締結するよう指導あるいは示唆したとは認められない。さらに、前示認定の譲渡契約によると、原告は、羽鳥サバイバルランドと同会社自体及び同会社に関する一切の権利を譲り受けるとし、同契約の効力発生時期を昭和五八年八月一日と定め、三瓶は同年七月三一日までの債務金額の金額を責任をもって精算し、その翌日以後の収支は原告において行うものとされたほか、三瓶をはじめとする旧社員六名を引き続き雇用すると定められており、この契約内容からして、原告が羽鳥サバイバルランドの債権のみならず債務の一切を引き継いでいることが明らかである。また、両当事者間で債務負担をいかに取り決めようとも、それは内部分担の問題にすぎないのであり、被告県をはじめとする行政との関係においては、当該区域における開発行為者としての地位を承継している以上、原告が開発行為者として従前の責任も負担すべき筋合いのものである。先述したように、原告としては、本件土地において産業廃棄物処理施設を設置するためには、まずもって森林法に基づく開発許可を受ける必要があったが、既に羽鳥サバイバルランドが自動車競技場ダートコース造成のための林地開発許可を得ていたので、それを承継することでこの関門を切り抜けようと試みたというのであるが、この方法を選択すれば、産業廃棄物処理施設を設置することを目的とした開発許可申請手続を踏むことから出発するよりも、かなりの時間と労力、経費の節減になるという利点があり、〔証拠略〕によると、当時の原告代表者であった伊藤も、このような点を考慮して開発許可の承継という方法を選択したことが認められるのである。してみると、原告は、まったく自らの判断によって、開発許可を承継する途を選んだのであって、その承継手続とこれにまつわる行政指導になんらの違法性も認められないことはもとより、さらには災害の発生に対して必要な措置を講ずべき義務を免れることはできないものである。したがって、県道の補修工事及び防災工事に関する被告県の行政指導に違法はないものと認められる(ちなみに、県道の補修工事及び防災工事の実施についての被告村の公権力の事実は認められない。)。

3  次に村道の補修工事に関する被告村の行政指導の違法性について考える。前示の事実によると、被告村は、羽鳥サバイバルランドを企業誘致したものではなかったが、村の活性化を図る意味でその進出を歓迎して協力を惜しまなかったことが窺われるところ、ただその開発計画に対する意見として工事期間中及びその後の災害防止については適切に施すことを求めたほか、同会社が地域代表者と取り交わした環境保全に関する協定締結にも後見的に参加し、自動車競技場の設置が原因で予期せぬ災害等が生じた場合には地域住民に対して速やかに補償し、その額と補修事業等については村長立会いのもとで協議して定める旨の内容を確認していたため、本件の災害が前記のとおり同会社の開発行為に起因していると考えられたことから、直ちに三瓶を呼び寄せて、村道の復旧工事を行うように促したところ、同人も了承したというのである。そうすると、被告村は、予め締結していた環境保全に関する協定の趣旨に基づいて、原因者として補償の義務を負うとされた同会社に対して、その協定に定められた義務の履行を促して補修事業の実施を申し入れたものであって、道路法に基づく道路管理者としての所掌事務の範囲において、その事務を遂行するために実施した行政指導として、これを必要とする事情があり、かつ、社会通念上相当と認められる方法によって行われているのであるから、違法とみることはできない。そして、原告は、前記のとおり、右工事を実施しないままの状態であった羽鳥サバイバルランドの一切の権利義務を引き継いでいるから、原告に対して引き続き前記の行政指導を実施したことも理由があり、しかも、原告は、被告県に対するのと同様に、被告村の指導について態度を保留したり拒絶することもなく、率先して、道路法二四条に基づいて右工事を施工しており、かかる事実経過の中では、被告村が、原告に対し、右工事の実施を強迫、強要したような事情はまったく窺われないことからして、被告村の行政指導についてもこれを違法と考えるべき理由はみあたらない。もとより、原告が、特に被告村の行政指導に応じて村道の補修工事を行った意図は、その後に予定していた産業廃棄物処理施設設置の手続が円滑に運ぶようにするため、被告村やその住民らの理解と歓心を得るためであったことは明らかであり、原告の認識においては、林地開発許可の承継にまつわる行政指導も、産業廃棄物処理施設設置に関するそれに連なるものであろうが、あくまでも林地開発許可をはじめとする羽鳥サバイバルランドの承継に係わる一連の行政指導と、産業廃棄物処理施設の設置に係わる行政指導とはまったく別次元の問題なのであり、後年になって処理施設設置計画が被告村や住民らの反対運動等によって頓挫し、それまでに投じてきた資金がすべて無駄に終わる結果となり、その期待を裏切られたとしても、結局、そのような意図は、かかる行政指導に従うことにした動機にすぎないのであって、前示の判断のとおり、右の行政指導についてはいずれも相応の必要性と根拠をもって正当に行われたものである以上、これらが事後的に違法となることはない。したがって、村道の補修工事に関する被告村の行政指導に違法はないものと認められる(ちなみに、村道の補修工事の実施についての被告県の公権力の行使の事実は認められない。)。

4  以上のとおりであるから、県・村道の補修工事及び防災工事に関する原告の損害賠償請求には理由がない。

四  続いて、本件処理施設の設置手続における争点について順次検討するに、先に整理したように、廃棄物処理法をはじめとする関係法令上、関係市町村には、なんらの権限も付与されていないのであるが、原告は、被告県のみならず、右設置手続の過程における被告村の公権力の行使によっても、本件処理施設の建設費用、並びに審査及び再審査請求のために支出した弁護士費用の損害を被ったと主張するので、まずはその公権力行使の有無について判断をする。

右のとおり、関係法令上、関係市町村は、廃棄物処理施設の設置手続にまったく関与する機会はないが、前示した被告県の指導指針によると、設置予定者から事前審査願が提出されたときには、予め関係市町村の意見を徴することと定められているが、前示の事実によれば、被告村が、昭和五八年一〇月二五日、被告県の求めに応じて本件処理施設設置に関する意見書を提出したほか、その後も地域住民の反対運動が起こったことを受けて、建設反対の意見を重ねて上申したというのである。ところで、このように市町村が都道府県に意見を述べたとしても、法令上特段の定めがない限り、都道府県は、この意見に拘束されることなく、その権限に基づき独立して必要な行政判断を行うのであるから、結果的に市町村の意見を反映した公権力の行使を行ったとしても、あくまでもその責任は都道府県にあり、仮にそれが違法な場合であっても、その判断形成過程で徴された市町村の意見までが違法性を帯びるようになることはない。そして、市町村が都道府県に対して意見具申する行為は、それが法令上の根拠があろうとなかろうと、一般私人を名宛人としたものでなく、これを直接的に拘束することはないから、これを国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」と認めることはできない。したがって、被告村の被告県への一連の意見具申は、公権力の行使にあたらない。

また、被告村は、建設工事着手を表明した原告に対し、要望書を手交して着工を見合わせるよう強く要望しているところ、仮にこれが行政指導にあたるとしても、前示の事実経過の下では、関係自治体として、原告と地域住民の間の紛争発生を防止する必要があり、これに対処する方法としても社会通念上相当なものと認められるので違法とはいえない。加えて、前示事実経過に照らすと、羽鳥サバイバルランドが村道補修工事の申し入れを了承したにもかかわらず、資金難により着手しないままでいたというのであり、そのような状態の同会社を原告が承継すること自体が地元から歓迎されたであろうことは想像に難くないものの、それ以上に、被告村が、当初、原告による本件処理施設の設置を歓迎して積極的対応を行ったとの事実は認められないし、そのほかに被告村の背信性を基礎づける事実を認めることもできないので、被告村に信義則違反があるとする原告の主張も理由がない。

以上のとおり、被告村には、本件処理施設設置に関する公権力行使の事実は認められず、前記建設費用及び弁護士費用についての被告村に対する原告の損害賠償請求は理由がない。

五1  次に、原告は、福島県知事が昭和六〇年九月一八日付の本件文書をもって発した本件通知について、これは実質的にみて命令にあたり、法令上の根拠を欠いた違法のものであると主張する。前示のとおり、福島県知事が本件文書を発するに至った経緯の発端は、原告が本件土地に産業廃棄物処理施設設置のために、被告県から事前指導を受けるなかで同意の取得を求められていた範囲の住民について、その同意を取り付けることができないまま、建設工事に着手した点にあるところ、原告は、被告県が、そもそも法令上の根拠なくして、住民の同意を取り付けるように指導したことが違法であると主張するので、まず、この点から判断をする。

廃棄物処理法及び同法施行令をはじめ関係法令上、産業廃棄物処理施設を設置するにあたり、設置予定地区はもとより周辺地区の住民から同意を取り付けることは要求されておらず、設置届が受理されたならば、原則として、産業廃棄物の最終処分場については受理された日から六〇日を経過すると工事に着工することができると定められているに止まる(同法一五条二項)。その一方で、廃棄物処理法は、廃棄物を適正に処理し、及び生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としており(一条)、都道府県は、当該区域内における産業廃棄物の状況を把握し、産業廃棄物の適正な処理が行われるように必要な措置を講ずることに努めなければならないとされ(四条二項)、産業廃棄物処理を業として行うとき、あるいはその事業の範囲を変更しようとするときは、都道府県知事の許可を受けることを要し(一四条一項、五項)、同処理施設を設置する場合には都道府県知事に届け出なければならず(一五条一項)、その届出があった場合において、その届出に係る同処理施設が省令で定める技術上の基準に適合していないと認めるときは、届出者に対し、計画の変更又は廃止を命ずることができ(同条二項)、さらに設置された同処理施設の構造又は維持管理が右の技術上の基準に適合していないと認めるときは、その設置者又は管理者に対し、同処理施設につき必要な改善を命じ、又は期間を定めて当該処理施設の使用の停止を命ずることができる(同条四項)と定められていて、事業者による産業廃棄物の処理が必ずしも適正になされておらず、その不法投棄などが環境汚染の原因となっている実情をふまえて、都道府県知事に事業の許可権限および施設設置と維持管理についての権限が付与されている。そして、被告県は、これら関係法令の適正な運用をはかり、産業廃棄物の適正な処理、処分を指導するために前示の指導指針を設けており、これによると産業廃棄物の最終処分場の設置にあたっては、事前に諸調査を実施し、環境への影響予測を行い、さらに跡地の利用計画を立てる必要があるが、これらの事前調査や審査にはかなりの手数と日数を要することにかんがみ、設置届の正式受理に先立ち、事前指導を行うものとしていて、とりわけ当該最終処分場の進入道路周辺住民を含め、当該施設設置場所から悪臭、騒音、振動、廃棄物の飛散及び流出、浸出水及び地下水等の影響の考えられる範囲の住民の同意を得るように特に万全の指導を行うこととしている。

そこで、このような指導の適法性について考えてみるに、地方自治法によれば、地方公共団体は、その行政事務として、地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持し(二条三項一号)、また、じんかい処理場、汚物処理場その他の保健衛生、社会福祉等に関する施設を設置し若しくは管理し、又はこれらを使用する権利の規制(同項六号)を行うものと定められている。一般的に廃棄物処理施設の設置は、周辺の生活環境の悪化を招くおそれがあることから、地域住民に歓迎されないことが多く、その理解と協力を得ておらないと反対運動を惹起して円滑な施設の設置が困難となり、もし設置できたとしても事業運営に大きな支障を生ずることになるのが通例であることから、環境に影響が及ぶと予想される地域の住民から事前に同意を取り付け、もって設置後における事業活動の円滑な遂行を確保させるように措置することは、住民の安全、健康や福祉を保持する責務を負うとともに、廃棄物の適正な処理のために必要な措置を講ずることを求められている地方公共団体のみならず、廃棄物処理施設の設置を計画する者にとっても必要にして有用なことであると考えられる。してみると、事前指導の段階で、地域住民の同意の取り付けを求めることは、これを必要とする事情が存するのであり、廃棄物処理法の趣旨にも抵触することはないのであるから、法令上に具体的な根拠を欠くことをもって、直ちに違法とすべき理由はない。

2  さらに、原告は、被告県が本件における事前指導において、当初設置予定区域である真名子地区の同意があれば足りるとしたが、後日、これを虫笠、上羽太及び下羽太地区まで拡大し、実質的にみて不必要にして同意取得が不可能な範囲を要求していると主張する。しかし、前説示のとおり、被告県は、昭和五八年九月一九日、原告から産業廃棄物処理施設設置届に伴う事前審査願を受理し、被告村の意見を求めたところ、同年一〇月二五日、西郷村長から設置地区のみならず下流域の右三地区の住民の同意を得ることを希望する旨の意見書が提出されたので、これを尊重して、同年一一月三〇日、整備事項の一項目として下流域三地区の住民の同意を求めたという経緯であって、後日に同意を求める範囲を拡大したという事実は認められない。また、被告県の前記指導指針によると、同意を求める範囲は、当該最終処分場の進入道路周辺住民を含めた、当該施設設置場所から悪臭、騒音、振動、廃棄物の飛散及び流出、浸出水及び地下水等の影響の考えられる範囲の住民とされていて、かかる基準は先の同意を求める趣旨に照らして相当といえるが、さらに各事例毎における具体的な範囲の決定においては、結局、当該地域の実情を最もよく把握している市町村の意見を参考にするのが適切というべきである。してみると、本件では、前示のとおり、被告県が、被告村の意見を尊重して、被告村の求める範囲をそのまま同意を要する範囲として指示しているのであるが、本件設置予定地区が真名子川の最上流域に位置しており、同川が水道水源や農業用水として利用されているという事情にかんがみれば、前掲三地区に関する指示が直ちに合理性を欠くほど不必要に広範囲に過ぎるとはいえない。したがって、本件の事前指導において同意を取得すべき住民の範囲の指示についても違法とすべき理由はないのである。

3  以上のとおり、被告県が、原告に対し下流域の住民についてまで同意の取得を求めた事前指導は違法でないといえるので、さらにこれを前提として、福島県知事が昭和六〇年九月一八日付の本件文書を発して、原告に工事の中止を求めた行為の違法性について検討する。

まず、前記のように、原告は、本件文書をもって発せられた本件通知が、その体裁、内容、受領者に与える印象等を総合すると実質的にみて命令にあたると主張するが、行政庁が一般私人に対して発する命令とは、一般的に、法令に基づいて私人に対し一定の作為、不作為、給付、受忍等を命ずる行為をいうものと解されるところ、本件文書により原告に求めている工事の中止は、廃棄物処理法をはじめとする関係法令により発令を根拠付ける規定がなく、また、〔証拠略〕によると、被告県では、命令と通知とは文書の形式を区別しており、命令の場合には「命ずる」旨の表記がなされ、不服申立についての教示も明記されていることが認められ、そのような表記がなされていない本件文書は命令にあたらないというべきである(当時の原告代表者寺田元一らも命令にあたらないと認識していたことは、被告県の環境保全課長に変更届の受理を打診した際の陳述からも窺うことができる。)。ただ、ここで問題とすべきは、本件通知がいかなる法形式にあたるかということではなく、むしろ当該行為の内容と態様、すなわち、本件の情況下において被告県の県知事が原告に対して行った工事中止勧告が、法令の根拠を欠く行政指導としてその許容範囲を逸脱した違法な公権力の行使といえるか否かという点である。そこで検討するに、前示事実によると、被告県から事前指導により重ねて求められていた下流域の住民からの同意につきこれを取り付けないままの状態で、且つ被告村からも着工を見合せるように強い要請を受けていたにもかかわらず、原告が施設建設工事の着手に踏み切ったことから、地域住民の反対運動が激しくなり、工事禁止の仮処分や賃借権不存在確認訴訟が提起されたほか、被告村や周辺自治体からも再三の陳情を受けるなど極めて憂慮すべき事態へと発展したため、被告県おいては、保健環境部長名で、都合四度にわたり、地域住民との摩擦を避けるためにその同意を取り付けるまで工事を中止するよう要請を繰り返したが応じてもらえない情況にあったところ、たまたま廃棄物処理法の規定に基づき原告から徴した報告によって、設置届の内容と異なる工事を施工していることが判明したため、その構造及び規模の変更があるにもかかわらず廃棄物処理法一五条一項に定める変更届の提出を怠っているという法律違反の事実があると認め、従前の中止勧告よりも強い意思を表明するために県知事名を用い、法律に違反しているので工事を中止されたいとする内容により、本件文書を発したというのである。そうすると、本件文書に基づく本件通知は、従前までの中止勧告の通知と比較すれば、その名義が異なることはもとより、文面もやや強い調子となっており、これを受領した側の視点でみれば、廃棄物処理法により一定の権限の付与された県知事からの指示ということから、強制力をもった命令であるとの誤解を呼ぶ余地もないではないが、それでも、右のように、住民の反対運動が激しくなる中で、原告が被告県の度重なる中止勧告に応じないまま工事を続行している情況において、新たに法律に定める手続違反が判明したという経過からすると、従前からの私人間の紛争の解決を目指して行われる調整的機能に加えて、違法行為を是正するための指導という意味合いも併せもっている本件文書による工事中止の勧告は、その名義や内容等を勘案しても、比例原則からして直ちに違法とはいえないものである。

したがって、被告県の県知事が本件文書を発して原告に工事の中止を求めた行為を違法とする原告の主張は理由がない。

六1  続いて、被告県が行った本件不受理処分の違法性について判断する。前示事実によると、原告は、昭和六〇年九月、県知事の中止勧告を受けて工事を中止し、被告県などの仲介で地域住民と話し合いの場をもったが、双方とも主張を譲らずに平行線を辿ったまま膠着状態に陥り、その後、工事禁止仮処分事件への対処と事故対策を講ずる必要から、変更届を提出して工事再開を企図し、昭和六三年一月二一日、その受理の可否を被告県の環境保全課長に打診して、仮に受理されなくとも提出せざるを得ないとの決意を伝えると自重を求められたものの、同年二月一〇日、敢えて変更届の提出に及び、本件不受理処分を受けると直ちに行政不服審査による審査請求をなし、棄却の裁決がなされたので再審査請求を申し立てたところ、厚生大臣によって原処分を取り消す旨の裁決がなされたという経過にある。そして、〔証拠略〕によれば、福島県知事における審査請求の裁決は、地域住民の同意取得を求めることは違法でなく、本件経緯に照らせば、変更届を受理しないことによる原告の不利益を考慮しても、公益上の必要性が極めて高いという特段の事情があること等の理由を挙げて審査請求を棄却したのであるが、厚生大臣における再審査請求の裁決は、廃棄物処理法及び同法施行規則で定める届出書と添付書類を提出したにもかかわらず、不受理としたことは違法であると判断したことが認められる。このような事実経過に基づいて本件不受理処分の当否を考えてみるに、原告は、被告県の行政指導たる中止勧告に任意に応じて、いったん工事を中止し、地域住民の同意を得ようと交渉を重ねていたが、事態に解決の糸口が見い出せないまま二年四か月が経過していたところ、前示の理由などから工事の再開を企図し、被告県に予め打診をして、その考えが変更届受理に消極的であることを認識したうえで、あえて変更届の提出に踏み切ったというのであるから、この段階において、原告は、前示の仮処分事件における駆け引きとしての側面があったとしても、被告県の工事中止という行政指導には応じられないとの意思を真摯かつ明確に表明していると認められる。ところで、設置届に基づく工事を施工していく過程で、その構造及び規模について変更が生じた場合、厚生省令で定めるところにより、その旨を都道府県知事に届け出なければならないことになっており(廃棄物処理法一五条一項)、都道府県知事が要件を備えた適式の変更届を受理しないことは、いわば届出者に違法状態を強いてこれをそのまま継続させることを意味し、その反射的効果として、設置届が受理されたことにより開始した設置工事についてこれを適法に続行することが不可能となるという不利益を課することになる。また、原告は、被告県から事前指導を受けた範囲の住民の同意をすべて取り付けることなく工事に着工し、住民との紛争を自ら招いたものといえるのであるが、その後二年四か月の間にわたり、被告県の中止勧告に従って、任意に工事を中止し地域住民との対話に努めるなど、被告県の行政指導には協力的に対応していたものであって、地域住民の頑な姿勢を変えることができないで紛争の解決に至らなかったものの、この責任をすべて原告に負わせることはできないうえ、工事の中断によって建設途中の施設に防災上の問題も危惧され、また長期間の工事中止によって経費が嵩み、再開の目処が立たないことによって資金繰りにも支障が生じていた事情さえも窺われるところであって、このような事情に照らせば、原告が、変更届を提出することによって被告県の行政指導にもはや従うことができない旨を表明したことは、住民との紛争が再燃することを防止するという公益上の必要性を斟酌しても、直ちに社会通念上正義の観念に反するとまではいいがたいというべきである。したがって、本件不受理処分には、廃棄物処理法の定めに違反した違法があると認められる。

2  ただ、このような法に定める手続違背があることをもって、直ちに国家賠償法一条一項にいう「違法」があるといえるかは、さらに検討を要するところである。先の論述からも明らかなように、事業者が設置届を提出した後、設置工事を施行していく過程でその構造及び規模について変更を生じ、設置届と実態との齟齬を是正するために変更届を提出した場合、これが受理されることによって届出者に設権的利益が付与されるわけでないことはもとより、他方でこの変更届を怠ることによりなんらかの制裁を受けたり、工事中止を命ぜられるなどの直接又は間接の強制措置が定められているわけでもなく、不届という違法状態が存続する外には設置者が法的な不利益を被ることはない。したがって、変更届の不受理という行為それ自体には、これを起因して届出者に対する法益侵害が予想されるものではないし、まして工事を中止させたままの状態を維持せしめるだけの法的効果を有するものでもないことなどを考えると、本件不受理処分の法的効果により原告が建設工事を中止する関係にあったと認められないし、また法的効果の点はさておき、不受理処分に逆らって工事再開を強行することが社会的非難の高まりを招くなど諸々の反射的不利益を生ずることは予想されるにしても、その程度の不利益は原告において受忍すべき範囲を出るものではないこと等を考え合わせるならば、原告が主張する施設建設工事中止により生じた建設費用相当額の損害は、本件不受理処分に起因する関係にあったとは認められず、少なくとも右損害発生との原因関係を論ずる限りでは、本件不受理処分は、国家賠償法一条一項にいう違法に損害を加えた場合にあたらないと、解される。

七  さらに付言するに、前示の事実によれば、本件土地のうち二筆五・六九三七ヘクタールにつき、原告は占有権原がなく、訴外森キヨ子に対し地上の工作物の収去及び土地の明渡義務を負担することが別件訴訟の判決で既に確定しており、結局、原告が本件土地に本件処理施設を設置することは法的に不可能であったから、この点から考えても、本件不受理処分と右損害との間に相当因果関係はなかったと認められる。したがって、いずれにせよ、本件処理施設の建設費用に関して、被告県に対する原告の請求は理由がないというべきである。

八  最後に、原告が、審査及び再審査請求のために支出した弁護士費用の損害性について検討する。前示事実によれば、本件不受理処分に対する審査及び再審査請求するにあたり、弁護士を代理人に選任し手続の追行を依頼しており、原告主張の金額の費用報酬を支出したことを推認することができる。

そして、原告が、いったんは福島県知事からの行政指導に従って建設工事を中止し、翻って同知事に対し本件不受理処分の取消を求める不服申立手続に出たことは、今後は行政指導に従わない意思を貫徹することを決意し、もって同工事の再開を容認せしめようとするものであって、自己の権利を擁護するための手段であると認めることができる。かくして、所期の目的を達し本件不受理処分は取消されるに至ったのであるが、それ以外にも建設工事を障害する重大な原因が多々競合しており、かかる諸問題が解決されなかったために、それらの競合する別の障害原因が決定的に働いて、結局、原告は工事再開までにこぎつけることができなかったのである。そして、仮に福島県知事が原告が変更届を提出した段階でこれを受理していたとしても、事態の推移に変わることはなかったと推認される。そうすると、本件不受理処分については、それがもたらす法的効果が前示のとおり極めて限定されていること、さらに競合する別の重大な原因関係が解決されないで残存していたこと等に照らして、たとえ本件不受理処分が取り消されたとしても、原告は建築工事を再開することができるようになる関係にはなかった、と考えられる。本件不受理処分の取消は、建設工事を再開するための解決方法として有効に働かなかったのである。また、本件不受理処分につき審査請求するにあたっては専門的技術知識を必要とするが、産業廃棄物処理を営業する原告においては、右技術知識を備えており、弁護士を代理人に選任しなければ審査・再審査請求手続を追行することが不可能である、という関係にないことは明らかである(原告により選任された弁護士において、最も解決するために腐心した課題は、変更届の届出手続を了するための義務よりも、むしろ競合する他の障害原因、特に民事紛争の解決にあったものと推認される。)。

本件不受理処分の審査及び再審査請求のために支出された弁護士費用は、本件不受理処分との間に相当因果関係がある通常損害にあたらないというべきである。

したがって、審査及び再審査請求のために支出した弁護士費用に関して、被告県に対する原告の損害賠償請求にも理由がない。

第四 結論

以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 林美穂 石垣陽介)

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